「はだしのゲン」を知っている人はどれだけいるだろうか。戦争と核、その悲惨さをつづった書物や映像は数多い。しかし今、戦争体験世代の高齢化により、その語り継ぎは困難にある。漫画「はだしのゲン」は戦争のリアルを伝える作品として多くの人に支持されている。作者・中沢啓治の体験を主人公ゲンに託す形で描かれているが、当時の道徳的価値観の違い、表現の過激さ等を理由に、学校での閲覧制限、教材からの削除など社会問題になったことも記憶に新しい。そうした逆風でも世界中に読者層を広げ、「はだしのゲン」の熱を伝えていく人々がいる。番組では「はだしのゲン」を通して戦争と核、平和への思いを伝える。
作品紹介
2024年ノーベル平和賞に日本被団協が選ばれた。ウクライナ侵攻やイスラエルによるガザ地区攻撃など、一向に終わらない戦争によって、「被爆の記憶」をいかに後世に伝えるかは世界の関心事となっている。
そんな中、日本には漫画という誰にも伝えられる媒体で被爆の恐怖と怒りを伝える「はだしのゲン」という作品がある。しかし、この漫画でさえも教育現場から消えかけるという憂き目にある。
この番組では、この漫画を今に伝えるようとする人々の「熱」を取材し、今もなお主人公ゲンが叫ぶ原爆と戦争の不条理さについて改めて考える。
作品動画
【審査員講評】
朝日新聞東京本社 編集局 編集委員 後藤 洋平
学校の図書館などから消えつつある「はだしのゲン」を、再び多くの人に知ってもらいたいという制作者の意図がストレートに伝わる番組だった。神田香織さんの講談を軸にしながら、中沢啓治さんの妻ミサヨさんや、広島市で活動を続ける渡部久仁子さんら様々な視点を取り入れることにも成功している。
今回の審査期間中、映画「火垂るの墓」が国内配信サービスに登場するというニュースがあった。「はだしのゲン」についても、その重要性や存在感は、戦後80年を迎える現代においても非常に大きいと感じさせられた。