今からおよそ100年前、新聞社特派員として上海を訪れた芥川龍之介。このドラマは、日本文学の代名詞・芥川の小説世界と、動乱期の中国の現実を交錯させながら、日中の精神的交流を世界に向けて発信する。主演・芥川役に松田龍平、撮影監督に、日本映画界を牽引するカメラマン・北信康氏を迎え、ほぼ全編を上海で撮影。1920年代の中国が、8Kの圧倒的映像美で鮮やかに甦る。
作品紹介
1921(大正10)年、芥川龍之介(当時29歳)は新聞社の特派員として上海に渡る。子どものころから「西遊記」などの古典に親しんだ芥川にとって、そこは憧れの理想郷のはずだった。だが、当時の中国は動乱のさなか。清朝を倒した革命は、やがて軍閥の割拠という混乱に至り、西欧諸国や日本が上海の租界をわがもの顔で支配し、民衆は壮絶な貧困にあえいでいた。
理想と現実のギャップに絶望すら覚えながらも、芥川の知性は巨龍・中国の精神世界へと分け入っていく。そこで出会うのは、革命の世で政治と向き合う知識人たちと、裏路地で日々をしたたかに生き抜く妓楼の人々だった…。
NHK
作品動画
【審査員講評】
ノンフィクション作家 吉岡 忍
テレビだけでなく、あらゆる表現分野が、いま何を、誰に向かって表現すべきかと迷っている。なんでも描けるが、響いてくるべき〝こだま〟は膨大な情報とノイズにさえぎられ、制作者の耳目にはなかなか返ってこない。
若き日の芥川龍之介の上海旅行記を手がかりに、中国近代の混乱を生々しく描き、そこから革命中国への困難な道のりを遠望した『ストレンジャー』制作陣にも、いま、なぜ1920年代(大正末期)のドラマなのか、という迷いはあったに違いない。だが、現代のみなもとにまでさかのぼってみなければ、とりとめもなく広がる世界の意味はわからないのだ、という制作者の確信が、この作品からは読み取れる。いまや巨大な隣人となった中国の生い立ちに分け入ったこの〝蛮勇〟こそ、多くの表現分野、とりわけ意識的な視聴者に支えられる衛星放送界の核心に必要とされるものである。