放送業界では政治的発言をする芸能人は“難しい”と言われています。しかし、本当にそうなのでしょうか…?村本さんを通して、放送業界にいる自分自身、原点に立ち返ってテレビというメディアについて改めて考えたいと思い、この番組を企画しました。SNSの発達により誰もが影響力を持つ世の中になりましたが、一方でSNSの反応を心配するあまり、社会が萎縮する現在の風潮も危険なのではないかと思ったことも企画した理由です。
作品紹介
ウーマンラッシュアワー・村本大輔。2013年「THE MANZAI」で優勝し、テレビに引っ張りだこになったが、原発や沖縄の基地問題などを漫才のネタにし始めた頃からテレビ出演が激減。2020年のテレビ出演はたった1本。彼はジャーナリストさながら福島や沖縄などに足を運び、生の声を聞いて回る。そして、“笑い”に変え続けた。常に笑いのネタを探し続ける彼に番組は密着。さらに村本がテレビから消えた理由を関係者に取材。見えてきたのは、テレビの制作現場に漂う空気、そして社会におけるお笑いの役割と可能性だ。彼はなぜテレビから消えたのか?村本大輔という芸人を通して、テレビというメディアを見つめ直す。
©BS12 トゥエルビ
作品動画
【審査員講評】
ノンフィクション作家 吉岡 忍
コロナ禍は、閉塞した現在を生きる視聴者の知的欲求に応えていない、というテレビの弱点をあらためて明らかにした。たしかに膨大な情報は伝えているが、それを読み解き、ときには泣き、怒り、笑い飛ばして暮らしの質感に転化する力が、いまのテレビにはない。村本大輔はその弱みに気づいてしまった芸人である。彼は3.11被災地や原発事故の現場、都会の雑踏や地方の過疎地を歩き、現場と情報の目のくらむような落差を肌身に感じながら、あらたな笑いをつくり出そうと呻吟している。ニューヨークへ飛び、夢中で習い覚えた英語で小さな舞台に立つ姿からも、その必死さが伝わってくる。彼の言葉のいちいちを〝政治的発言〟などと忌避する日本のテレビに、われわれの未来を預けるわけにはいかない。自粛や忖度によって切り縮められた笑いの無力さを突き、テレビの弱点を突き抜けようとするテレビ――その可能性に賭ける村本と制作者に拍手を送りたい。